yakuto2008-02-24

母の着物類(レインコートや羽織なども含む)の一部を私用に直すことになりお仕立て屋さんに持っていったのだけれど、着物は(もったいないしギリギリ裄丈も足りそうなので)お直しをしないままいきましょう。ということになり、羽織は少しお直ししてもらうことに。
私は25歳頃まで着物類に関しては(そういうのって多いんですけれど)見ることは好きなのだけれど、自分が着ることには興味がなかったのです。興味がないというより抵抗があったのでした。とくに浴衣に関しては今でもかなり強い抵抗があるので当分着ることはないだろうし、もしかしたら一生着ることはないでしょう。
私にとって着物という存在は遠い文化で、安易に着るのはその文化を軽んじているような気分になり後ろめたさを感じる・・・気がしていたの?かしら??もしかしたらそれは遠い文化と感じていたのではなく、隣にあるものなのにどうしてもシックリこないと感じていただけなのかもしれませんが。その違和感を受け入れることができなかった頑固でおちびな私。ハレの日に着物を着るという時になって大泣きしひっぺがし体が弱いものだからぶっ倒れたおちび。今も(チビであることも頑固なところも)たいして変わっていないようですが、周囲もどうしてこんなに着物を嫌がるのかわからなかったそうです。私もたぶんわかんなかったな。好き嫌いだとか後ろめたいとかそういうが実際にあったかわからないけれど、少なくとも「着るのがイヤ!」と意識せざるをえないものだったようです。・・・今考えるとね。着物というよりハレの日というのにぼんやり恐怖を感じていたのかもしれない。
ただ私にとって羽織だけは別。着物とは別物という感覚もあり、特別という感覚もあります。小さいころからスリーシーズン(秋から春)家では羽織を着て生活していました。軽くて温かくて涼しくてとにかく慣れ親しみ大好きな存在。とくに懐手ができること、胸のあたりでキュッと結ぶ行為。私にとってなくてはならない生活必需品だったと思います。すべて祖母の仕立てで古い着物をほどいては仕立て直してくれ、一緒に裏地の色などを考えたのは懐かしい思い出です。とくに好きでボロボロになっても手放さなかったのが(今も残してあります)表は黒地にうっすらと赤の織りが入った生地。裏は黄緑の羽織。祖母は羽織以上に洋服や小物を私に作りあたえてくれ、私は祖母の作るものにまみれて(まさにまみれる)過ごしたのです。こんなに羽織に思い入れがある私ですが、でも、やっぱり、どういうことか着物にはまったくだったのです。
そんな私の曽祖父は着物の目利きだったそうです。若い時分から将来の番頭(と今もいうのかな?)として京都の呉服屋に入ったた曽祖父*1ですから、目利きなのは当たり前で自慢するほどのことではなかったと思います。そして母の持っている着物類はすべて曽祖父(母にとっては祖父)の見立てです。
母は私以上に着物など興味のない人ですから、山ほどある着物のほとんどに袖すら通さないしまつ。私が(それらの一部)を見せてもらったのもつい最近だったのです。ここ何年か「着物を見せてほしい。ものによっては本格的に着付の勉強をするから。」と言い続け、数年の攻防がありやっと見せてもらったのでした。数年の攻防に勝ったというより、身内の結婚式に着物で出たいと言い張ったのが直接の勝因なのですけれどね・・・。
実際に見せてもらった時は、なんというか「なんで何年も着物を出すのを渋ってたんだよ」と感じるくらいに母がキャッキャして失笑。眠っていた着物は、まぁ、ため息。想像はしていたけれど。曽祖父が生きていたことを肌で感じることができたのも嬉しかった。二十歳前後の女の子に買うにしては渋いチョイスで、母の一生を考えて買い与えたのだとしてもやはり渋いものが多くどうしてこういう選択*2をしたのか聞いてみたい。これから着物に触れ続けていれば曽祖父の思いがわかる日が来ることを(私自身に)期待する。着物が渋い(地味と言ってもいいでしょう)反面、羽織やレインコートがとても愛らしい柄や色が多いのでした。帯に関してはなにも申しますまい。
とりあえず着物と羽織を一枚ずつお直しに出した時に「いい柄ですねぇ。誰のお見立てなの?」という話になったので、ひぃじいちゃんだと言ったら、お仕立て屋さんは目をまん丸にして驚いていたのでおかしかった。ひぃじいちゃんの生い立ちをかいつまんで話すと納得されていたけれど。
なにかが受け継がれるというのは何かを誰かを懐かしむことも含まれているのでしょう。
写真は振袖に合せて仕立てた帯。

*1:事情があり跡取りとして家に引き戻されのを生涯残念に思っていたんだとか。という話も聞くけれど、そのあたりの事情というのは私は知らない。

*2:伯母(母の姉)などはわりに明るい色味のものが多いと聞いたことがあるのだけれど、考えてみると母には渋いものが似合うし伯母には明るいものが似合うと思う。